東京高等裁判所 平成9年(ネ)1504号 判決 1997年10月16日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
理由
【事実及び理由】
一 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 右部分に関する被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 事案の概要
次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決五頁一一行目の「一二月五日」を「一二月七日」に改め、同六頁一〇行目の「当時」の次に「、小学校時代に経験した両親の離婚、その後の学校への不適応等が原因で」を加え、同七頁二行目の「架電によるもの」を「架電によるものと」に改め、同四行目の「期間中に」の次に「、右精神状況から自宅に篭もりきりの毎日を送りながら、被控訴人が仕事で外出中に」を加え、同五行目の「情報料が」を「仕組み及びその情報料と通話料が控訴人の請求に係る金額ほどに」に改める。
三 争点に対する判断
次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一一頁八行目の「提供している。」の次に「右回収代行契約に関する平成二年当時の契約書の雛形(乙第四三号証。以下、単に『回収代行契約書』という。)第六条においては、情報提供者が利用者に提供する情報サービス等の提供条件等については、契約約款を定め利用者の閲覧に供するものとされているところ、この約款が情報契約を規律するのであるが、この標準約款として控訴人が作成した有料情報サービス契約約款(乙第四五号証。以下、単に『標準約款』という。)の第六条には、『本サービスの利用者(その利用者がNTTの提供する加入電話等からの場合はその加入電話等に係るNTTとの契約者をいいます。以下同じとします。)は、前条の規定に基づいて算定した料金の支払を要します。』との規定があった。」を、同一二頁四行目の「乙第三号証の一三」の次に「、第四三号証、第四五号証」を、同一三頁七行目の「考えられる」の次に「し、仮に加入電話が加入者に無断でダイヤルQ2に利用されたとしても、これは加入者側の事情であって、情報提供者においては関知できない事情であり、その責任を情報提供者に転嫁するのは不適当である」を、同八行目の「行い得る」の次に「、<5>情報料は、一二段階の情報料ランク(三分当たり最低が一〇円、最高が三〇〇円)となっており、一〇段階の通話料ランク(三分当たり最低が一〇円、最高が二七〇円)にほぼ対応して低廉で妥当性があり、また、利用者が自らの意思により任意に決められる利用時間に応じて料金が高くなる従量料金制は、普遍的で合理的な料金体系である」を、同行目の「加入者は」の次に「、標準約款第六条に基づき」を加える。
2 同一四頁一行目の「右主張は、」の次に「利用者が加入者に無断でダイヤルQ2を利用した場合において」を、同一一行目から同一五頁一行目にかけての「認め難い。」の次に「情報提供者と利用者との間の情報契約を規律する標準約款六条は、利用者(その利用が控訴人の加入電話による利用の場合には加入者)が料金の支払義務を負う旨を定めるが、これは、加入電話による利用の通常の場合を想定した規定にすぎないものと解されるのであって、右条項をもって、利用者が加入者に無断でダイヤルQ2を利用した場合においても、加入者がその利用代金を支払う一般的義務があることを承認する旨を定めた規定と解するのは、その文言に照らして到底困難であるといわざるを得ない。」を、同六行目の「その他」の次に「、利用者が加入者に無断でダイヤルQ2のサービスを受けた場合において」を加える。
3 同四四頁一行目の次に「その他、被控訴人の右支払によって、情報提供者の春子に対する情報料債権が消滅したと解すべき根拠は見当たらない。」を加え、同二行目の次に次のように加える。
「なお、控訴人は、情報提供者(又はその代理人たる控訴人。以下この段落において同じ。)、被控訴人、春子の三者間の不当利得が問題となる場合に、情報提供者に利得がなく、春子に利得が存する場合は、被控訴人の不当利得返還請求権の相手方は春子であると主張する。しかしながら、春子が被控訴人に無断で加入電話を使用してダイヤルQ2を利用したことによる情報料債務を被控訴人が負担するものと解することができないことは、前記一に判示したとおりであるから、情報提供者は、被控訴人との関係において、被控訴人から受領した右の情報料に相当する額の金員を法律上の原因なくして利得している(春子に対する情報料債権は消滅していない。)ことは明らかというべきであって、情報提供者に利得がないとすることはできない。そうすると、控訴人の右主張はその前提を欠くものであって、失当である。」
4 同四六頁二行目の「情報量」を「情報料」に改め、同一一行目の次に次のように加える。
「この点につき、控訴人は、回収代行契約書第四条が『乙(情報提供者)は、回収代行の対象となる有料情報等サービスに係る料金を甲(控訴人)の機器により測定し、ダイヤル通話料及びその延滞利息と一体として有料情報等サービスの利用者に請求することを承諾する。』と規定していることから、控訴人は情報提供者から、情報提供者の代理人として情報料を回収し、これを受領する権限が授与されているので、商法五〇四条本文により控訴人の情報料回収行為は情報提供者の代理行為であって、控訴人には利得はないと主張する。しかしながら、回収代行契約書は、乙(情報提供者)の提供する有料情報等サービスに係る料金の回収代行を甲(控訴人)が行うことを目的として締結されたものであり、このような目的や右第四条の文言からすると、乙(情報提供者)が控訴人に対し、控訴人の名において情報料を回収し、これを受領することを委託したものであり、控訴人は情報提供者の代理人として情報料の回収を行うものではないと解するのが相当である。のみならず、仮に控訴人が情報提供者の代理人といえるとしても、控訴人の代理権は回収代行契約で定めた範囲に限られるのであって、回収代行契約上、回収することが認められているとはいえない被控訴人から受領した情報料に相当する額の金員については、控訴人は代理の効果を主張することはできないといわざるを得ない。したがって、控訴人の右主張も採用できない。」
5 同四九頁三、四行目の「生ずるのは、」の次に「加入者が情報提供者に対して負担する」を加え、同五〇頁一行目の次に次のように加える。
「この点につき、控訴人は、仮に被控訴人が情報提供者に対して情報料支払債務を負担していなかったとしても、控訴人の被控訴人からの情報料回収行為は、回収代行契約の趣旨に沿ったものであるから、控訴人の情報提供者に対する情報料回収代金の引渡しは法律上の原因を有する行為であって、控訴人の情報提供者に対する不当利得返還請求権は成立せず、結局、控訴人には利得が存しないと主張する。しかしながら、回収代行契約上、控訴人の情報提供者に対する引渡債務が生ずるのは、右のとおり、加入者が情報提供者に対して負担する情報料支払債務を控訴人が回収したといえる場合に限られるのであって、控訴人が回収したそれ以外の金員については、情報提供者が控訴人からこの引渡しを受けたとしても、これを保有すべき法律上の原因は存しないものというべきであるから、控訴人の右主張も採用し難い。」
四 よって、原判決は相当であって、本件控訴は棄却を免れない。
(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 柳田幸三 裁判官 小磯武男)